雫井脩介犯人に告ぐ』(双葉社)読了。〈劇場型捜査〉という斬新な設定を採用した時点で、この物語は従来の警察小説とは異なる面白さを創造し読者に提示しなければならなかったということを、果たして作者は自覚していたか。結局、劇場型捜査という設定の面白さは活かされることなく、従来の警察小説の定型に半ば縋り寄る中途半端な出来に終わっている。マスコミに捜査情報をリークしている人物を巡って中盤多少盛り上がるものの、誘拐事件捜査という肝心の本筋が盛り上がらない中、それとはさして関係ない部分で盛り上げてもらっても首を捻ってしまう。ベージュの誤認というアイデアは面白いが、これも扱い方と提示するタイミングを間違えているように思える(この作品の切り札として、意外性とともに提示するべきではなかったか)。そして最も苛立ったのは、まるでト書きのような登場人物の性格造形。この作者に才能が無いとは思わないが、少なくとも『犯人に告ぐ』は多くの点で詰めの甘い作品と断じざるを得ない。*1
 続いて今は堂場瞬一の『焔』(実業之日本社)を読書中。堂場作品を読むのはこれが初めて。ふたりの主人公の間に何か過去の印象的なエピソードが欲しいところだが、それはこれから出てくるのだろうか。アメリカのスポーツ・エージェントの世界が描かれていて、そのネタ自体はハーラン・コーベンのマイロン・ボライター・シリーズ(ハヤカワ・ミステリ文庫)があるので特に斬新というわけではないが、なかなか面白く読ませる。野球というスポーツの素晴らしさを描くことなどまったく視野に入れず、プロビジネス描写に徹している書きっぷりが小気味良い。

焔―The Flame

*1:劇場型犯罪と劇場型捜査という点では、最近話題の『DEATH NOTE』(集英社ジャンプ・コミックス)がなんと言っても出色。