麻耶雄嵩『螢』(幻冬舎)読了。作中にひとつ、ありふれたトリックの裏表を綺麗にひっくり返して使ってみせたような秀逸なアイデアが盛り込まれており、そのアイデアだけでもこの作品は賞賛に値する。とはいえ中盤までの展開がどうにも退屈で、絶賛とまではいかないのが残念なところ。麻耶作品には最初から起伏に富んだストーリー性など求めていないが、それにしても新作を発表する毎に作品世界が灰色に近づいているような、そんな奇妙な印象を受けた。ロジックを成立させる細やかな手際には好感が持てるし、今のところこの作品が芦辺拓の『紅楼夢の殺人』(文藝春秋)と並んで今年最も感心した本格ミステリではあるのだが。
 続いて柄刀一の文庫書き下ろし『火の神の熱い夏』(光文社文庫)を読了する。『OZの迷宮』の探偵役が再登場する一編で、小品ではあるがよく考え抜かれた力作だと思う。多少、力業と思わせる箇所も無いではないが、面白いアイデアではあると思うので許容範囲内だろう。この作品の欠点は文章で、最近の柄刀作品はデビュー期と比べ明らかに文章が荒れている。多作であるにもかかわらず内容の充実度が減じていないのは結構なことだが、推敲も必要ではないか。
 そして現在は雫井脩介の『犯人に告ぐ』(双葉社)を読書中。前評判の高かった話題作で、力作だと思うが、……今のところ感心できる特徴をひとつも発見できていない。っていうか、ええと、このネタを使っていながらなんでこんなに凡庸なんだ?
 あ、飛浩隆『象られた力』(ハヤカワ文庫JA)は残すところ表題作だけで、とても楽しんで読んでいるが、正直言ってあまりにも計算され尽くした内容なので余剰の入り込む余地が無いというか、読んでいて多少息苦しい。

螢