頁数の少ない二冊の本を読了する。北森鴻『螢坂』(講談社)は『花の下にて春死なむ』『桜宵』に続くシリーズ第三弾。ミステリとしては異色の構成を持つ作品が多く、もとより本格ミステリとは全く無縁の内容になっているが、読み物としてはたいへん上質で、この作者のストーリーテラーとしての力量を明快に示している。巻末の「孤拳」がとりわけ味わい深い。もう一冊、伊藤たかみ雪の華』(角川春樹事務所)は共感覚を構成要素に採り入れた青春恋愛小説で、ややストーリーを作り込み過ぎという憾みはあるが、若干ミステリ風のプロットが上手い具合に作用して、これも楽しくすらすらと読めた。主要登場人物をつなぐ事件として割と生々しい事件を描いているのだが、それがほとんど汚らしく感じられないのが好ましい。個人的にはもう少し深みが感じられたほうが好みではあるけれども、これはこれで良いのだと思う。
 読み終えたもう二冊の本、堂場瞬一『焔』(実業之日本社)と森福都『琥珀枕』(光文社)についてはまた後日。端的に言えば、この二冊は現時点における今年の私的ベスト10候補。

螢坂 雪の華