第50回江戸川乱歩賞受賞作、神山裕右カタコンベ』(講談社)を読了する。受賞してからの手直しが上手くいったのか、それとも最初からこれくらいの完成度を有していたのかはよく判らないが、予想よりもよく出来ていて、楽しめた。縮小再生版『ホワイトアウト』という印象の作品ではあるけれど、思い込みの激しい人物が延々と右往左往する最近の真保作品より遥かに好感は持てる。ケイビングという題材の面白さ――それより洞窟という舞台の面白さと言ったほうが良いか――がこの作品の魅力の大半を占めているとはいえ、時折見られる紋切り型の表現(「この哀れな遭難者」など)を払拭することができれば、将来の活躍を期待しても良い書き手ではなかろうか。少なくとも昨年、一昨年の乱歩賞受賞作よりは面白いと思う。*1

カタコンベ

*1:そういえば昨年の受賞者の受賞後第一長編、まだ刊行の報を耳にしませんね。