エリザベス・ボウエン『あの薔薇を見てよ』(ミネルヴァ書房)を引き続き快調に通読中。とはいえ、ここに収録されているような上質な短編を次から次へと読み散らしてしまうのはなんだかとても意地汚い行為のように思えてしまうので、毎晩一、二編ずつ堪能している。
 小野寺健編訳の『20世紀イギリス短編選(上)』(岩波文庫)に収録されていた「幽鬼の恋人」*1はこの作品集には収録されていないが、アンソロジー『猫は跳ぶ イギリス怪奇傑作集』(福武文庫)の表題作は「猫が跳ぶとき」とされて収録されている模様。とはいえ、この作品集を怪奇幻想集と考えたり、ボウエンを怪奇作家として考えるのは早計で、矢張りこの作家は20世紀前半のさまざまな英国女性像を描くことに傑出した文芸作家なのだと思う。とはいえ勿論、朧げな不安を上品に掻き立てる筆も魅力的だ。
 というわけで日中は他の作品を読み進め、中野順一クロス・ゲーム』(文藝春秋)を読了する。サントリーミステリー大賞受賞作家の受賞後第一長編で、ミステリとして多少盛り上がりに欠けるラスト(ネタは割と面白いはずなので、演出次第ではもっと印象の強い結末にできたのではないか)など不満もいろいろ感じられるが、悪くない。とにかくすらすら読めるのが良く、ストーリーの流れが滑らかなところも好印象。取り敢えずデビュー作の『セカンド・サイト』(文藝春秋)も読んでみようという気になった。……それにしても、チャットやゲームを小説の中に取り入れると妙に時代遅れのような雰囲気が立ち上ってしまうのはどうしてなのだろうか*2

クロス・ゲーム

*1:南條竹則編訳『怪談の愉しみ』(創元推理文庫)では「魔性の夫」。

*2:これは沙藤一樹の作品集『不思議じゃない国のアリス』(講談社)を読んでいた時にも感じた。