転落

永嶋恵美(2004.07)講談社 ISBN:4062124378 【ミステリ】

 ホームレスになったボクは、食べ物を恵んでくれる少女の飼い犬になり……
 ホームレスに転落してゆく過程がじっくりと描かれるため、最初は躊躇しながら読んでいたが、第二部が始まった時点で「あ、こんな展開を辿るのか」と意外な感に打たれた。前作『彼方 ニライカナイ』(双葉社)の印象がきわめて薄かったため、正直言うとあまり期待していなかったが(しかしその後に読んだノンミステリ短編「迷子」*1が割合好感触だったのでもう少し読み続けてみる気になった)、これは(作者には失礼だが)意外な拾い物と言えるのではないか。主要登場人物が陥る閉塞感が緊密に描かれていてこの作家の筆力を感じさせるし、ミステリとしても楽しめるような企みが施されていて、幕引きの展開も面白い。なかなかの力作という印象を受けた。永嶋恵美名義最初の作品『せん−さく』(幻冬舎)や、別名義*2で書かれたライトノベル・ミステリ『ダミーフェイス』(角川スニーカー文庫)も取り敢えずチェックしておいたほうが良いかも知れない。

*1:『短編ベストコレクション――現代の小説2004』(徳間文庫)に収録されたもの。

*2:映島巡(第四回ジャンプ小説NF大賞受賞者)