金融探偵

池井戸潤(2004.06)徳間書店 ISBN:4198618712 【ミステリ】

 勤めていた銀行が倒産し、不況下で再就職もままならない31歳の大原次郎。住んでいるアパートの大家が巻き込まれた事件がきっかけとなって、探偵家業に精を出すことになる。全七編収録のシリーズ作品集。
 金融に関連する事件ばかりが収録されているわけではなくて、作品集中半分は金融とは関わりを持たない(または関わりが薄い)事件が描かれている。個人的にはそちらのほうが面白く、とくに第二話「プラスチックス」はトリッキーな味わいの秀作として印象に残った。「誰のノート?」(その後に続く短編とで実質上はひとつの中編を成す)も紆余曲折を辿って結末に至る好編、「眼」に至ってはなんと現実に起こり得ないファンタスティックな要素を内包したミステリで、かなり幅広いタイプの作品が一冊に纏められている。金融を扱った作品のほうも、そちらのほうの知識にはとんと明るくないのだが、飲み込みやすい筆致で書かれているため楽しく読めた。
 池井戸潤には『架空通貨』(『M1』改題、乱歩賞受賞第一作)という傑作があるなど、かなり面白いタイプの書き手なのだが、経済ミステリの書き手というイメージがあるためか、その作品の楽しさに比してあまりミステリファンに読まれていないような気がする。とっつきにくい書き手では決してないので、もっと幅広い層に読まれても良いと思うのだが、どうか。*1

*1:矢張り著者の自信作らしい『BT’63』(朝日新聞社)、読まなくてはならないなあ。