百年佳約

村田喜代子(2004.07)講談社 ISBN:4062124211 【文芸/エンタテインメント】

 第50回芸術選奨文部大臣賞受賞作『龍秘御天歌』(文藝春秋)待望の続編。
 秀吉の朝鮮出兵の際に連行され、九州に住み着いた陶工たちの中心存在である百婆が、夫の葬式を朝鮮式でやると言い出した。しかし時は江戸時代、幕府の政策のために庶民は全て寺の檀家とならなければならず、従って葬式も全て寺が執り行うため、勝手に自分流で葬儀を行うことは禁じられている。日本式の葬儀を挙げながら、その裏で周囲の日本人に気づかれないよう朝鮮式葬儀も行うという無理難題を決行する百婆たちの葬儀騒動の顛末は?……というのが前作『龍秘御天歌』の内容。高度なテーマ性とコン・ゲーム的エンタテインメント性が合致した稀に見る傑作だったが、『百年佳約』はその続編となる。突風で飛んできた薪に頭を殴られて死を迎えた百婆が神となり、一族の結婚騒動に奔走するという内容で、葬儀の次は結婚というのが実に楽しい。
 長男が自分の娘たちを一族の発展のために日本人に嫁がせようとすることから発生する周囲の波紋、そして孫の将来を案じる百婆の怒りと納得がコミカルに描かれる。なおかつ〈朝鮮・日本間における文化の反撥と融和〉というテーマ性は(何しろ扱われているのが結婚騒動であるだけに)前作よりも更にヴィヴィッドで、興味深くもあり単純に面白くもあり、いやもう本書の楽しさは眼を瞠るほどと言えるだろう。ある意味日本文化批判と受け取れる描写も決して不快ではなく、むしろ朝鮮文化の豊かさ(そして一抹の不自由さ)を感じさせる。そして何より百婆の造形が見事。純文学作家にこれほど愉快で懐の深いキャラクターを描かれてしまっては、エンタテインメント作家も立つ瀬が無いのではないか。
 『龍秘御天歌』より更にエンタテインメント性が濃くなった分、読後の重量感は前作に軍配が上がるものの、満足感は甲乙付け難い。読書の楽しみをたっぷりと味わえる傑作である。