消えた山高帽子 チャールズ・ワーグマンの事件簿

翔田寛(2004.06)東京創元社 ISBN:4488017045 【ミステリ】

 明治六年、横浜居留地名探偵登場。幕末に東禅寺事件*1に巻き込まれ、明治に入ってから〈ジャパン・パンチ〉を創刊した実在の英国人新聞記者、チャールズ・ワーグマンを探偵役に据えた連作ミステリ。〈ミステリ・フロンティア〉第七回配本。
 西洋の幽霊と日本の幽霊が連続して目撃されたり、明治の世に仇討を行おうとした侍がいたり、ゲーテ座で上演される英国人たちの素人演劇に歌舞伎役者が招かれたり(そこで山高帽子が盗まれたり)、英国紳士が金屏風を背にして切腹としか思えない状況で死んでいたり、教会堂で密室事件が起こったり(死んだのはフランスと日本の若者)、とにかく西洋と日本の文化の混交が楽しい。探偵役ワーグマンが本国の〈イラストレイテッド・ロンドン・ニュース〉に打電する新聞記事で第一弾の真相が明らかになり、その後の説明で裏の事情が明らかにされるという二段構えの推理仕立てになっている点も素晴らしく*2(しかし「ウェンズデーの悪魔」のようにそのパターンを崩した作品が収録されているところがまた面白い)、あまりベタベタしない余情の盛り込み方も好みで、シリーズの今後に期待したい。この作家、ますます上手くなってゆくのではないかという期待を感じさせるので、最近の新人ラッシュのなかでも要注目の書き手だと思う。とくにあの傑作「奈落闇恋乃道行」(日本推理作家協会賞候補作、双葉文庫『影踏み鬼』収録)をものした書き手であることだし、このシリーズ以外の作品も含め、翔田寛のこれからが大いに楽しみ。

*1:水戸浪士による英国公使館襲撃事件。

*2:報告書で真相が明らかにされストーリーが終結するというところは、多岐川恭の連作捕物帳〈ゆっくり雨太郎捕物控〉を連想させる。