カタブツ

沢村凛(2004.07)講談社 ISBN:4062124017 【ノベル/ミステリ】

 〈ミステリーの新世界〉と銘打ってはあるけれど、伊坂幸太郎『チルドレン』より更にミステリ味は薄いので、そういった期待は過度に抱かないほうが賢明だろう。六作を収録した作品集で、先日読んだこの著者の長編『あやまち』よりも印象は遥かに強く、好著と呼んで構わないのではないか。絵に描いたような〈上手い短編〉である「袋のカンガルー」(〈袋のカンガルー〉というイメージの活用法がすばらしい)「とっさの場合」よりは、鮮やかな印象だけを残して終わる小品「駅で待つ人」や、やや不器用な筆運びながらも爽やかな後味が心地良い「無言電話の向こう側」のほうが断然好みで、今後沢村凛にはこういった方向性の作品もどんどん手掛けてもらいたい。
 絶賛したくなる傑作に出合えたわけではないが、これからの著者の活躍が楽しみになる、そんな作品集と言える。*1シンプルな装丁も好みだが、但しイラストに関しては「太った主人公が出てくる小説が収録されているのか」と思ってしまった。

*1:そういう期待感を持たせた作品集ということで他に思い出すのは、本多孝好の『MISSING』。