風の歌、星の口笛

村崎友(2004.05)角川書店 ISBN:4048735403 【SF/ミステリ】

 異変を起こし始めた世界を調査する探偵。二十五光年の距離を越えて惑星へ降り立った研究員。記憶の中に存在している恋人を追い求める若者。三つのパートが織り成す物語とは。第24回横溝正史ミステリ大賞*1受賞作。小笠原慧『DZ』、鳥飼否宇『中空』(優秀賞)、初野晴『水の時計』と、ここ最近の横溝正史賞はファンタスティックな作品が目につく。
 お約束を踏まえた面白さ、というのが読後の印象。三つのパートは予測通りに結びつき(田中芳樹最初期の傑作短編を想起させる)、「出入口の無い建物の中で天井に張り付いていた死体の謎」の真相もセオリーに則ったものと言えるが(今年の『新・本格推理』の投稿作にも同じトリックのものがあったらしい)、予定調和的な展開を追う和やかさ(?)と人好きのする作風とで楽しく読めた*2。謎の設定も面白く、その謎を魅力的に見せる演出においても手抜かりは無いように思う。ただ、SF的色彩が最も強い私立探偵登場パートは、このパートに登場する謎が弱い所為か、それとも自分がストレートなSFファンではないからなのか、あまり面白味を感じ取ることができなかった。もう少し異世界を描き込んでくれれば、あるいはもっと楽しめたかも知れない。
 なお、102ページでオリヴァー教授の名前が出てくるところには、この作者のミステリ・マニア的な遊び心が感じられてニヤリとした。*3もし村崎友が本当にマニアなら、もしかすると彼はあのトリックを無理なく成立させる理由を用意するためだけにわざわざ世界をまるごと作り上げてしまったのかも知れない。そうだとしたら――嬉しくなってしまうではないか!

*1:それにしても、この名称には未だ違和感を覚える。

*2:褒めてるんですよ。

*3:おそらくはアーロン・エルキンズが創造した「骨の探偵」ギデオン・オリヴァー教授のことだろう。代表作はアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞を受賞した『古い骨』(ミステリアス・プレス文庫)。