チルドレン

伊坂幸太郎(2004.05)講談社 ISBN:4062124424 【ノベル/ミステリ】

 作者曰く――短編集のふりをした長編小説です。
 苦言から書いてしまおう。五本の短編を繋ぐ影の主役・陣内はきわめて一般受けしそうなキャラクターで、気取らず適度にガサツで表面上は無茶苦茶なことを言うが、天才的な音楽センスを持ち、決めるべきところはぴしっと決める悪意を持たない正義漢。NHKで好感度調査を実施したら必ず上位に食い込みそうなこのキャラが、非常に判りやすい感動を演出する「チルドレンⅡ」のような話を、この特異な才能を持つ作者には求めていないというのが正直な気持ちである。時系列が前後する構成もあまり感心できず、伊坂作品中、この『チルドレン』が自分には最も平凡な内容であるように思われた(個人的な好みが強く出た苦言であることは重々承知している)。
 だが、そうは言っても本書が伊坂作品であることに間違いはなく、「チルドレン」に見られる芥川龍之介侏儒の言葉』の絶妙な使い方と意表を衝く仕掛け、「バンク」の韻を踏んだ小見出しの洒落っ気、そして「イン」の完成度の高さには矢張り唸らされてしまう。とりわけ「イン」は本書の白眉で、ゆるやかな緊張の糸をユーモラスな意外性で鮮やかに断ち切る手腕が素晴らしい。水もたまらぬ切れ味とはこのことだろう。苦言は呈しても、本書が今年前半の収穫のひとつであることは否定できない事実と言える。
 最後に、『侏儒の言葉』の中から印象的な一文を。――年少時代の憂鬱は全宇宙に対する驕慢である。