誰もわたしを倒せない

伯方雪日(2004.05)東京創元社 ISBN:4488017053 【ミステリ】

 これが初の著書となる新鋭による、格闘技と本格ミステリのコラボレーション。〈ミステリ・フロンティア〉第五回配本。
 これまでの〈ミステリ・フロンティア〉既刊とはまた違った意味で、まったく創元らしくない作品。孤児院のエピソードから幕を開ける展開(タイガーマスクかいっ!)、アントニオ猪木みたいな人が日本を牛耳っているかのような作品設定、「男なら誰でも一度は『世界最強』という言葉に憧れたことがある」(爆笑)、それなのに雰囲気は全編を通してダークという意外性。あまりのハイブロウ(?)ぶりに、にこにこしながら読み進んだ。
 そんな作風であるにも拘らず、ミステリ的には繊細な手際を要する趣向ばかりが鏤められていて、その点においても意外。更に意外だったのは第×話のトリックで、これにはひたすら驚いてしまった。単品で読むと何がそこまで意外なのか理解不能だろうが、この作品集に収録されていることで抜群の効果を挙げている。このトリックだけでも読む価値はあるのではなかろうか。
 最後は結局〈家族の話〉に落ち着いてしまう点は拍子抜けだが、印象は悪くない。次に何を書くのかが楽しみな新人の登場と言えそうだ。なお、矢鱈に長い解説は読み通すのが苦痛、装丁は……著者の趣味なのか?