平井骸惚此中ニ有リ 其貳

田代裕彦(2004.04)富士見ミステリー文庫 ISBN:482916252X 【ミステリ】

 骸惚先生探偵譚、今回のお題は〈嵐の山荘〉でございます。編集者・香月緋音嬢のお誘いで、山奥のホテルへ意気揚々と避暑に向かった骸惚先生ご一行。そこにいたのは不愉快な性格の華族四兄弟と、寡黙な執事、嬉し恥ずかしメイドさん。嵐のために外界から隔絶されたホテルにて、次々と発生する兄弟の怪死。逆境に強いながらも慌てふためく書生の河上君を尻目に、骸惚先生の推理が冴え渡ります。
 面白いではないか。洋館で華族の一族が次々死んでゆく、という古典的な設定が楽しい。古典的ゆえ新味が無いという批判があるかも知れないが、こういう内容の場合、下手に新しいより既視感があったほうがわくわくするものだ。骸惚先生一家の和気藹々とした雰囲気も好ましく、いろんな意味で完成度は前作より上だろう。但し、現代の視点を導入した序章と終章ははっきり言って余計。これがあると、現代の語り手が講談口調で過去の事件を語っていることになり、甚だ面妖である。
 この先、古典的探偵小説に徹するのも良し、セオリーを崩したものに挑戦してみるのも良しで、どちらにしても次の作品が楽しみ。……現代に舞台を移すのは暫く止めておいたほうが良いと思うが。