動物園の鳥

坂木司(2004.03)東京創元社 ISBN:4488012965 【青春小説/ミステリ】

 鳥井と坂木の友情三部作、完結編。
 男性同士の友情がボーイズラブの文脈で描かれている点で妙な話題を呼んだ連作だが、個人的には鳥井、あるいは鳥井を中心とするコミュニティの加入員に対しほとんど批判的視点が投げ掛けられない点のほうが気になった。
 社会的立場によって優劣をつけることでしか他人と付き合うことができない某登場人物を鳥井が糾弾する場面が作中にあるが、他人に敬語を使うことができない鳥井もまた同様の考えの持ち主なのではないか(常に他者と同格でいたい、あるいは虚勢をはらなければ他人と話すことができない――いずれにしても他者との上下関係が根本に存在している)。糾弾の後で「自分もそういう人間だ」と自分の弱点を認める展開になれば納得できたのだが、そういう展開にはならない*1。もし敬語を使えない理由がそういうものではないとしたら、その理由とは何だろう。つまり、最後まで鳥井は自分にとって判らない点の多いキャラクターだった。その点を残念に思う。
 しかしデビュー作でありながら、三部作を通してひとりの青年が自分の殻を破るまでを描き切った作者のバイタリティは評価されて然るべきだろう。何にせよいちばん興味があるのは、この作者が次に何を描くのかということで、その作品はおそらくこの三部作を超えるものとなるのではないか。

*1:但し念のために断っておくが、「そう言うお前はどうなんだ、そんな立派なことが言える立場なのか」というようなことを言いたいわけではない。ここで指摘しておきたいのは、そういう意識が導入されていたらこの物語はもっと厚みを増したのではないか、ということである。