あやまち

沢村凛(2004.04)講談社 ISBN:4062123436 【ミステリ/恋愛小説】

 ちょっとした縁で知り合い、つきあい始めた二人に付き纏う異相の男。わたしは次第に不安に包まれていった……
 『ヤンのいた島』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した著者が大作『瞳の中の大河』に続いて書き下ろした初の恋愛ミステリ。ミステリと銘打てば勘の良い読者なら即座に作者の意図を見抜いてしまうのではないか、という不安からおそらくは帯の紹介文にミステリという言葉をまったく使用しなかったのだろうが、心配することはない、使われていなくとも作者の意図は簡単に見抜ける。但し見抜いてしまうと面白さが激減するという話ではないし――半分はサスペンスフルな恋愛小説としての面白さなので――、かといって薄味とはいえミステリとしての結構は満たしているのだから、これはこれでミステリとして世に送り出しても良かった気はする。
 前置きが長くなったが、では面白かったかというと、残念ながら微妙。思うにこの作品のいちばんの弱点は、主人公の個性があまりはっきりしていないところではないか。読み終えても、主人公がどんな印象の女性だったのか像を結ばないのである。主人公と彼の出会い方はなかなか洒落ていて楽しく、細部にも光るところはあるけれど、全体的に(マイナスの意味で)淡々としている点が残念*1。次なる挑戦に期待したい。

*1:この傾向の作品では、説明不能の傑作である山本文緒の『恋愛中毒』や、若い女性のお洒落な生活の裏に隠された心情を強烈に曝け出してみせた春口裕子の『女優』など、きついほどの印象を残す作品が意外とたくさんあるので、その意味でも損をしているような気がする。もう絶版だろうが落合恵子の『逆光のなかの女』や森瑤子の某作なども楽しめた。あ、念のため書いておくが、いま挙げた小説は全部ミステリのカテゴリの範疇に入ります。