シュプルのおはなし

雨宮諒(2004.04)電撃文庫 ISBN:4840226601 【ライトノベル

 おかあさんが仕事に出かけているあいだ、シュプルはおじいちゃんの家に預けられる。ある日、物置部屋で木箱を見つけたシュプルは確信した、「これはおじいちゃんの宝箱だ!」――幼い子供が想像の羽を伸ばして物語を紡いでゆく、四話収録の連作短編集。第10回電撃ゲーム小説大賞〈選考委員奨励賞〉受賞作。
 物語の設定はありふれたものでも構わないと思うが、物語展開(特にラストの処理)が凡庸に感じられてしまうのは痛い。また、本書のコンセプトは「詩的で童話チックな、なんとなく美しい話」だと作者あとがきに書かれているが、それならばもっと絵的に美しいシーンを用意したほうが効果的だったのではないか。その意味では、《雪》の舞う光景でラストを締めた第一話「雪と弾丸」の印象が最も強い。
 なお、本書はシュプルが木箱の中に入っていたアイテムから〈おじいちゃんの過去の物語〉を空想してゆくストーリーで、当然そこで活躍するのは青年時代のおじいちゃんであるべき筈だが、シュプルが空想する主人公像は幼い自分の姿なのだ。つまり空想の中で主人公は飽くまで青年として扱われ、ギャングスターにもなれば戦場にも向かうが、彼の姿は徹頭徹尾幼児として描かれるのである。このアイデアが作者オリジナルのものであるかどうかは知らないが、もし作者が自ら考え出したものであるのなら、これはなかなかの発明だと思う。