高く遠く空へ歌ううた

小路幸也(2004.04)講談社 ISBN:4062123533 【エンタテインメント】

 『空を見上げる古い歌を口ずさむ』で第29回メフィスト賞を受賞した新鋭の最新長編。
 基本的には前作の設定を踏襲したファンタスティックな物語だが、残念ながら〈善と悪の闘い〉というテーマの掘り下げが浅く、単なるウェルメイドな読み物という印象に留まっている。「悪の描き方が物足りない」という感想を他サイトで見掛けたが、何でも悪辣に描けば良いというものではないので、その考えには批判的。むしろこの小説の物足りなさは、善を遂行する側の描き方が平板な点だと考える。
 そういった不満はあるものの、キャラクターを描く力には見るべきものがあって、本書の場合、とりわけ主人公ギーガン(このネーミングは秀逸)とその友達の造形が素晴らしい。場面を印象的に描く力もあると思うので、あとは骨太なストーリーラインを用意できれば、この作者は遠からず秀作を書き上げるのではないか。ノスタルジックな雰囲気については全面的に支持します。