神の手

望月諒子(2004.04)集英社文庫 ISBN:408747891X 【ミステリ】

 文芸誌編集長・三村のもとに送られてきた原稿は、かつて突然姿を消した作家志望の女性が書いた小説と同じものだった。一体裏で誰が何を狙って動いているのか?
 破壊的な気迫が内包された、稀有なデビュー長編。その気迫を一身に背負って立ち現れるのが作家志望の女性・来生恭子であり、彼女に込めて語られる〈書くことの業〉が強烈な迫力で読者に襲い掛かってくる。作者すらその迫力を統制できているとは言い難く、だからこのミステリは結果的にきわめて歪である。しかし、それが何だというのだろう。この小説の存在価値はそんなところにあるのではない、――と思わせるだけの力強さがここにはある。
 文章も決して上手いとは言えない。しかし熱に浮かされたように綴られる文章には凄みがあり、読後の疲労感たるやミネット・ウォルターズ級と言える。一日本人のデビュー作がウォルターズ級。これって凄いことだと思いませんか? とにかくこの気迫が本書だけに偶然取り憑いたものなのか、それともこの新人の本来の力なのか、これほど第二長編を読むのが楽しみな日本人新人作家も珍しい。個人的には今年前半期、最大の問題作である。