サスペンス・ミステリ

 最近、〈サスペンス・ミステリ〉と銘打たれた新刊をほとんど見かけなくなってしまった――あるいは、女性作家が書いたサスペンス・ミステリを。80年代後半から90年代前半にかけて精力的にサスペンスの新作を発表していた小池真理子山崎洋子、青柳友子、森真沙子らは、他ジャンルに移動するなどして(青柳のように死去というケースもあるが)、やがてほとんどミステリを書かなくなってしまった。彼女たちの追随者として今邑彩や祐未みらのの名前を挙げることができるものの、この二人の新作も最近は見かけなくなってしまったし、一時期は唯川恵や山本史緒、篠田節子に期待をかけて良さそうにも思われたが、結局彼女たちがこちらの方面に本格的に進出してくることはなかった。
 サスペンス・ミステリを見掛けなくなった大きな理由は、90年代にやって来たホラー・ブームにあるのだろう。*1このブームに乗って、デビューを目指す女性たちはサスペンス・ミステリではなく、ホラーを一斉に書き始めたように思われる。*2
 上記のサスペンス・ミステリは、トリッキーな趣向で楽しませるものもあったが、その多くは謎解きを含まず、文字通りサスペンスで読者を引きつけていた。だから書き手にとって、本質的にはホラーと創作姿勢は変わらないのかも知れない。しかし、ときには端正な筆致で緩やかな恐怖を描き、ときには女性ならではの冒険行を描いていたあの〈サスペンス・ミステリ〉が、今となっては無性に懐かしい。
 その意味で、現存するサスペンス・ミステリの精力的な書き手として、柴田よしきはもう少し高く評価されても良いように思う。*3

*1:90年代の女性新人作家の動向のひとつとして〈女性探偵もの〉を挙げることもできるが、ここでは割愛する。

*2:坂東眞砂子小野不由美恩田陸はホラー・デビュー組に分類しても良いだろう。

*3:永井するみにも注目しておきたい。