さよならの代わりに

貫井徳郎(2004.03)幻冬舎 ISBN:4344004906 【ミステリ】

 劇団〈うさぎの眼〉に所属する新米役者の和希は、可愛らしくもどこか謎めいた奇妙な女性に出会った。彼女の正体は? そして彼女の奇妙な依頼は何を意味するのか?
 筋を辿る楽しさを味わえる作品。だから本書の内容についての情報は、できるだけ摂取しないことをお勧めする。温かくコミカルな筆致で描かれている、という点でまさしく貫井徳郎の新境地的作品だが、もうひとつ、本格ミステリの呪縛から逃れたように伸び伸びと筆を進めている、という点でも新境地的と言えるのではないか。先日読んだ『二人道成寺』と同様、こちらも結末の意外性や奇抜なトリックを重視するマニアには向かないかも知れないが、風通しの良い爽やかなエンタテインメントで、読んでいるあいだ楽しい時間を過ごすことができた。*1

*1:蛇足だが、帯の推薦者の人選を見ただけでも、この作品がマニア相手に発信されたものではないということは自明の理だろう。