いじん幽霊

高橋克彦(2003.12)集英社 ISBN:4087746801 【時代推理】

 〈完四郎広目手控〉シリーズ、第三弾の舞台は幕末の横浜。外国人居留地が開設され、西洋と日本の文化の断層がダイナミックに立ち現れる一方、薩摩・長州・水戸の各藩を中心に一触即発の空気が蔓延していた時代であり、面白い舞台を用意したものだと思う。ヘボン岸田吟香など実在人物を多数登場させ、彼らを事件に絡める手際も堂に入ったもので、しかも簡素な文章で仕立てられているため読みやすい。正直、ミステリとしてはかなり荒っぽい印象を受けるものもあるが、収録十二編それぞれに楽しく読める。中では〈ふるあめりかに袖は濡らさじ〉で有名な遊女・喜遊を巡って大胆な推理が展開される「ふるあめりかに」に驚いた。
 このシリーズは〈力作感あふれる〉というタイプのものではなく、肩の力を抜いてあっさりと楽しめる読み物という感じの連作だが、広目屋(=広告代理店)としての活動と謎解きを結びつけた第一弾、〈東海道五十三次推理行〉とでも言うべき道中記仕立ての第二弾(『天狗殺し』)、そして第三弾の本書と、いずれもレベルが高い。おそらくは明治維新後を舞台とするだろう第四弾(いや、矢張り第四弾の舞台はアメリカなのかも)が今から楽しみだ。