みんな誰かを殺したい

射逆裕二*1(2004.05)角川書店 ISBN:404873539X 【ミステリ】

 みんな誰かを殺したい。そして実行に移した彼らの運命は――。第24回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。
 作者には失礼だが、意外に面白かった。今年の横溝正史賞は豊作だったと言えるのではないか。〈みんな誰かを殺したい〉というタイトルからもっと殺伐とした内容を想像していたのだが、実際には良い意味での軽い味わいが前面に出ているので、結果的に洒落たサスペンスを読んだという印象が残る。誰もが簡単に犯罪に手を染める展開にそれほど不自然さも空々しさも感じられないのは、基底にそこはかとなくユーモラスなトーンが存在しているからでもあるだろう。話がどんどん予想外の方向に転がってゆくので、一体どのようにストーリーを締め括るつもりなのか見通すことができず、ラストまで楽しませてもらった。後半に突入すると話の進め方ががらりと変わってしまったり、その変化に従って某登場人物の印象も違ったものになったりと、欠点も確かに見られるのだが、最近珍しいトリッキーなサスペンスの書き手として次作を楽しみにしたい。
 いや、第二部には意表を衝かれました。

*1:「射逆」は「いさか」と読むそうだ。