二人道成寺

近藤史恵(2004.03)文藝春秋 ISBN:4163225803 【ミステリ】

 歌舞伎役者の妻を意識不明の重体にした不審火の背景には何があるのか。歌舞伎をモティーフにした連作ミステリ*1の第四弾。
 堪能した。奇を衒った趣向やトリックを好むマニアには不評を買うかも知れないが、心理の綾を丁寧に描いていて読ませる。二人の対照的な歌舞伎役者が登場する芸道小説としての風合も面白く、その芸道小説的な側面と、この作者の本領である恋愛小説的な側面とが柔らかく融け合って、不思議な魅力を醸し出している。歌舞伎をモティーフにする作家は数多いが、このようなアプローチで歌舞伎を描こうとする作家は珍しく、独自性の点も高く評価したい。ラストでは、二人の役者が演じる二人道成寺を見てみたいと思った。

*1:禁じ手すれすれのトリックが使われる連作という印象もあったが、本作では最も無理の無い解決が用意されているため、普通小説の読者にはこれがいちばん受け入れやすいかも知れない。近藤史恵の作品は、もっと普通の読者に読んでもらいたいと思うので。ただ本書、〈本格ミステリ・マスターズ〉から刊行されてしまったんだよな……。