僕と先輩のマジカル・ライフ

はやみねかおる(2003.12)角川書店 ISBN:404873508X 【ミステリ】

 M大学文化人類学科に入学した井上快人は古色蒼然とした今川寮に引越してくるが、そこは一風変わった住人の巣窟で、その中でも二階に住む長曽我部慎太郎先輩は極め付きの変人だった。四作収録の新シリーズ第一弾。
 ミステリ的な充実度では、はやみね作品中ベストクラスの一冊。風変わりなキャンパス・ライフを描いている作品ということで、いつもよりも対象読者を上に据えた――というか、ふつうの文芸書と考えても何ら問題の無い連作であり、その分ミステリとしても通常より凝ったつくりになっている。二段構えの真相、全ての記述を真相に奉仕させようとする構成など、全ての面において成功を収めているというわけではないが、充実した本格ミステリを書き上げようとする意欲は大いに買っておきたい。泡坂妻夫の某作品を連想させるアイデアが含まれているなど、濃厚なミステリファン・ライターという著者の特性も、本書ではプラスに働いている。語り手の快人の愚痴が多すぎてストーリーを冗長に感じさせてしまう遺みはあるけれど、楽しませてもらった。

 なお、装丁に関しては仕方がないとは思うが、帯に書かれた文章は、どの辺りの層を主な対象読者と考えているかを徒に見え難くしてしまったように思われる(文芸書コーナーにも置ける内容なのに、ミステリ棚ではあまり見かけないような気がする)。それから「誰もが普段隠している『ひそみ』的な感情」というのは、正直言って意味がよく判らない。隠しているひそみ?