玻璃ノ薔薇

五代ゆう(2003・10)角川ホラー文庫 ISBN:4043711026 【ノベライズ】

 昭和4年に発生した「キネマ屋敷」連続殺人。その詳細を調べていた若手新聞記者・影谷貴史は、事件現場の孤島に赴いた途端、2003年の現在から、74年前の事件当日にタイムスリップしてしまう。意識を取り戻した彼は周囲から七瀬和弥と呼ばれ、連続殺人の目撃者となり……。
 先に書いておくと、本書はミステリとしてではなくSFとして終わる。ミステリの読者は落胆するだろうが、これはこれで面白いし、よく考えられた結末だと思う。そして、探偵小説に優れた解決を求めず、その中盤の雰囲気を何より楽しみたいという読者にとっては、本書は格好の贈物となるのではないか。おそらく本書において作者は横溝正史の世界を忠実にトレースすることに心を砕いており、薔薇窓、一部しか現存しない幻の探偵映画、スクリーンから飛び出す殺人者、秘密の抜け穴、美貌の双子など本格探偵小説のガジェットが満載の内容には、矢張り心躍らされてしまう。文章がきわめて読みやすい点にも好感が持てる。
 なお、本書は同題ゲームのノベライズとして執筆された。したがって、ふつう伝右衛門と書くところを伝衛門と書いてしまう気色の悪い表記や、SFとしての結末はみなゲームの設定が強いたことで(ゲームの公式ページで確認した)、五代ゆうの責任ではない。むしろ、粗雑な土台の上で健闘してみせた作者の努力を認めるべきではないかと思う。この作者の手になるオリジナルのミステリも読んでみたい。できれば本格探偵小説を。