廣真希『量子館殺人事件』(暖流社)読了。次の次くらいに読もうと思いつつ序盤をぱらぱらと捲っていたら、あっという間に読み終えてしまった。タイトルが『量子館殺人事件』、しかも帯に「スチームパンク探偵小説」とあるので如何にも怪しい本だと思いつつ購入したのだが、予想外にもこれは楽しい探偵小説でした。うるさ方は「新味に乏しい」と文句を言うかも知れないが、ことジャンルがミステリの場合、新味を狙いすぎて滅茶苦茶になってしまっている作品よりも遥かに好感が持てるし(何しろ「古式床しい」が皮肉にならないジャンルですから)、舞台を昭和九年にしてあるから古めかしい雰囲気に苦言を呈する気持ちにはならない。どうして「スチームパンク」(=SF)なのか、ということは結末で判るわけだが、古めかしい探偵小説というだけで終わらせたくないという作者のこだわりのように感じられ、ここにも好感を持った。傑作秀作と称するより、好感の持てる作品として愛好家にはおすすめ。描写に厚みがあればもっと楽しめたとは思うので、その点がちょっと残念ではある(但し、すっきりした文章は好ましい)。
ISBN:4888760527