臨場

横山秀夫(2004.04)光文社 ISBN:4334924298 【ミステリ】

 その能力の高さ故に〈終身検視官〉と称される捜査一課調査官・倉石の事件簿。八編収録。
 いやはや面白い。現時点における著者の最高傑作『第三の時効』に次ぐ完成度を有していると言えるだろう(「並ぶ」と言えないのは、残念ながら収録された各作品に出来不出来の波が見られるからだ)。惜しげもなくネタが詰め込まれた凄まじい充実度の本格ミステリ「眼前の密室」、ミステリとしては水準作だがラストの余韻が心憎いばかりの「餞」(ワンパターンな設定に陥りがちなため、小説としては物足りないことも多々ある横山作品だが、この「餞」は見事だと思う)の二編がとりわけ素晴らしい。横山作品では珍しいほど、きわめて本格ミステリ的な趣向が盛り込まれている「鉢植えの女」にも驚かされたし、「黒星」に見られるそこはかとないコメディ・タッチも作品集の完成度を高める好ましいスパイスになっている。〈終身検視官〉倉石の造形も、完全無欠のヒーロー像としては文句無し。上質の娯楽作品である。