黒真珠の瞳 凶眼リューク

草上仁(2004.02)エニックスEXノベルズ ISBN:4757511329 【ミステリ/ファンタジー

 突出した推理能力の持ち主であるため〈凶眼〉と渾名されるヒト族の探し屋リュークは、エルフの未亡人から、彼女の夫を殺した犯人を突き止めて欲しいと頼まれる。犯人は人狼なのか? 調査を続けるリュークと助手のフィボは、いつの間にか大陰謀に巻き込まれ……。
 最初に断言しておくが、作者はこの『黒真珠の瞳』をファンタジーではなくミステリとして書き上げている。主人公の推理は古式床しいホームズ流、メインストーリーは殺人事件の調査および裏に隠された陰謀と意図の顛末で、登場人物の不可解な行動の裏には常に何らかの理由が用意されている。陰謀の全体像があまりにも早く提示されてしまうので、全体的にはかなり冗長に感じられるし(勿論これは余計と思える場面や文章が目に付くからでもある)、正直言ってミステリとハイ・ファンタジーは矢張り水と油の関係にあると思うのだが、エルフの行動理念を謎解きのロジックに取り込もうとしている点などは積極的に評価されて然るべきだろう。そんなところが伏線だったのか、というような意外性も仕込まれていて、作者のミステリへの愛情が感じられた。
 ミステリとしてのプロットに力が入れられた作品であるため、本書がファンタジーとして楽しく読める作品であるかどうかははっきり言って疑問。もしかして、こういう皮を纏わせないと草上仁はミステリを発表できないのだろうか?と、余計な心配をしてしまいたくなった。もう少しプロットを整理してくれれば、普通のミステリを発表しても何ら不思議ではない実力はあると感じる。草上氏には一度、本格的な謎解きミステリを手掛けてもらいたい。*1

*1:短編では「転送室の殺人」などがある一方、長編では『ウェディング・ウォーズ』や『東京開化えれきのからくり』など、周辺的な作品しか無かったと思うので。