パーフェクト・プラン

柳原慧(2004・02)宝島社【ミステリ】 ISBN:4796638113

 第2回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

 虐待されている子供を家庭から連れ出してしまった、かつての代理母。事態の収拾に集まった男たちは、逆に現状を利用し、誰も傷つけずに莫大な利益を生み出す計画を実行に移す……
 久しぶりにバブリーなミステリを読んだという印象。今日的な「売れる」ネタを不必要なほど幾つも投入して華やかなイメージを作り上げ、意表をつく展開を重視しながらストーリーを前へ前へとスピーディーに押し進めているが、そういったことと引き換えに、小説的な深み、キャラクターの立体的な造形、印象に残る場面作り(あるいは余韻)など、いろいろなものを犠牲にしているようにも思われた。展開の意外性も、なんとなく「行き当たりばったり」感と紙一重のように感じられたし、例えば作中における山中忠志の扱い方や、最後に登場する犯人がきわめてステレオタイプの造形であることなど、充分な計算が行き届いたプロットのようには思えない(しかし、そのことが逆に「先の見えない」ストーリーラインを作り出している、とは言えるだろう)。
 ただ、それでもこの新人に将来有望なものを感じるのは、これほどいろいろなネタを鏤めていながら、それをひとつひとつ懇切丁寧に説明し始めるという愚を犯さなかったことだ。説明の誘惑に負ける浅薄な書き手が多いなか、柳原はひたすらストーリーを前に進めることを重視している。ネタの調査報告とストーリーを天秤にかければ当然ストーリーのほうが大事、という基本中の基本を既に体得している点が立派。
 なお、本書は誘拐ミステリではないと個人的には思う。