修羅の夏 江戸冴富蔵捕者暦

新庄節美(2004.01)東京創元社 ISBN:4488012949 【時代本格推理】

 盲目の少女が探偵役をつとめる連作時代本格推理。「隠居殺卯月大風」「母殺皐月薄雲」「後家殺水無月驟雨」の三編を収録。
 楽しめたが、総じて情感よりも江戸知識の披露が先行している印象で、江戸情緒や季節感、人情の機微といった捕物帳ならではの膨らみには乏しい。そのため、本書は捕物帳というより時代ミステリと呼ぶべきだと考える。*1
 ミステリとしては、第一話を読み終えた段階では先行きにやや不安が感じられたものの、第二話、第三話は格段に分量も増えて読み応えがあった。作品を重ねるにしたがってストーリーの滑らかさや謎解きの面白さが増してくる感じなので――謎解きについては欲を言えば、例えば302ページのような曖昧な理由で容疑者を限定してもらいたくはないのだけれど――、このシリーズの完成度が今後、充実の一途を辿ることを期待する。*2
 なお、地の文においても徹頭徹尾「お冴様」と書かれている点は最後まで気になった。

 ちなみに本書のサブタイトルが「捕者」という表記になっているのは三田村鳶魚の説を踏まえたものか、それとも泡坂妻夫へのオマージュか。*3

*1:捕物帳の起源は本格推理にあるとする都筑道夫の説も有力だが、だからといって〈季の文学〉的側面を捨て去って良いとする考えは、現状では最早ナンセンスでしかない。それに、都筑は捕物帳に謎解きの面白さを復活させたいと考えたものの、情緒を否定したわけではなく、自作には江戸の風物や季節感を丁寧に織り込んでいる。

*2:そういえば、本書に収録された若竹七海の解説は、五大捕物帳から謎解きの色彩が強い横溝正史の〈人形佐七〉シリーズを除いて四大捕物帳と書き記したり、あるいは都筑道夫の〈なめくじ長屋捕物さわぎ〉や久生十蘭の〈顎十郎捕物帳〉への言及を敢えて避けたりすることで、〈江戸冴富蔵捕者暦〉の本格謎解き連作という特異性を引き立てようとしている。解説巧者であるとあらためて感じた。

*3:泡坂妻夫の作品集『鬼女の鱗』『自来也小町』『凧をみる武士』『朱房の鷹』のシリーズタイトルは〈宝引の辰捕者帳〉。