真夏の島の夢

竹内真(2004.02)角川春樹事務所 ISBN:4758410267 【エンタテインメント】

 瀬戸内海に浮かぶ鹿爪島にやってきた、コント劇団コカペプシのメンバー四人。アルバイトに精を出しつつ、借りた稽古場で次回作の腹案を練っていたが、気がついたら島の老人たちによる産廃拒否運動に巻き込まれていて……。
 主要登場人物が活き活きと描かれているところが最大の美点だろう。ユーモアを基調とした文章、陰湿な展開を排除した爽やかなストーリーと相俟って、気持ち良く読み進めることができた。ミステリ的な趣向も若干盛り込まれてはいるが、そちらのほうは飽くまで香り付け程度に過ぎず、本書は矢張りユーモア・エンタテインメントとして読んだほうが抜群に楽しめる。
 現実の出来事やひらめきによって芝居のアイデアが次々生み出され、ラスト近くでは芝居の台本も完成するというストーリーラインを辿るが、安易にメタフィクション的な構成を採用していない点に好感を持った。後半で展開される、主役級の男女二人の会話(これが爽やか)も真摯な姿勢を感じさせて快い。竹内真の小説を読むのは第二長編『カレーライフ』(集英社)以来だったが、チェックしておいたほうが良い作家であることに間違いはないようだ。……但し、『カレーライフ』と比べると、馬鹿馬鹿しいパワーがトーンダウンしている点がちょっと残念にも思われた(さながら〈カレー版八犬伝〉とでも呼びたくなる『カレーライフ』の前半は本当に愉快だった)。
 あと、この作者、タイトルをつけるのはもしかして苦手かも知れない、とふと思った。