女王蜂

横溝正史(単行本刊行1952年)角川文庫 ISBN:4041304113 【ミステリ】 

月琴島からあの娘をよびよせることをやめよ。あの娘のまえには多くの男の血が流されるであろう。彼女は女王蜂である」――絶世の美女・大道寺智子をめぐって起きる連続殺人。伊豆半島沿岸の孤島・月琴島修善寺、東京と舞台を変えつつ繰り広げられる惨劇に金田一耕助が挑む。
 再読。本格探偵小説というよりも謎解きを絡めた西欧的ロマンスで、日本的な陰湿さも事件のグロテスクさもほとんど感じられない、華やかで明るい雰囲気の物語である。市川崑はその辺りを心得たものか、自身の金田一シリーズ五作品*1の中で唯一『女王蜂』の脚本には参加せず、岸惠子高峰三枝子司葉子など一流の映画女優を揃えて華やかな映画を作ることに徹していた。しかし、後続の映像化および角川書店の広告戦略によって本書も「奇怪で土俗的な本格探偵小説」というイメージを押し付けられてしまった感がある。
 アリバイや密室トリックの投げやりな処理からも判るように、本格推理小説の愛好家を意識したものではなく、雑誌読者*2を楽しませることに意識を集中した作品だと思う。完成度は高くないが面白く、エンタテインメント・ライターとしての横溝の一面をよくあらわした代表作のひとつだろう。

*1:後年の『八つ墓村』を除く。

*2:『女王蜂』は雑誌《キング》に連載された。