ヘビイチゴ・サナトリウム

ほしおさなえ(2003.12)東京創元社 ISBN:4488017010 【ミステリ】

ミステリ・フロンティア〉第2回配本、第12回鮎川哲也賞最終候補作。ひとりの女子高生の墜死が波紋を呼ぶ学園ミステリであり、錯綜するテキストの迷宮を描いた先鋭的な作品でもある。
 作者が東浩紀夫人であること、きわめて現代的な作風、ポール・オースター鍵のかかった部屋』、笠井潔の解説(そこで指摘されている「自分と他人との境界のくずれ」)などから、現代文学的な読み解き方をしてしまいたくなる作品だが、果たしてそういったキーワードめいたもので読み解いて安心してしまって良いものか、という不安も感じられた。この作品の最大の特徴は、どことなく掴みどころのないふわふわとした、それでいて底のほうに冷ややかさが漂っている、そういった独特の雰囲気であると思う。デビュー作で既に独自の作風を所有し得ている。
 他に印象に残ったのは、不思議なほど読みやすい文章と、主役級の登場人物である中学生・西山海生の心象風景。さらに、229-230頁で明らかにされる二つの伏線は、本格ミステリ好きの心を心地良くくすぐるものだった。
 なお、ひとりだけ異様にキャラ立ちしている登場人物がいるが(双葉の兄)、どうも東浩紀がモデルらしい。成程、そういうことなのか。

※「砂時計サナトリウムブルーノ・シュルツ全集に収録 新潮社